CAPM の限界とファーマ・フレンチの発見

CAPM (資本資産価格モデル) は、個別株式の期待リターンを市場リスク (ベータ) のみで説明しようとするモデルです。しかし 1990 年代初頭、シカゴ大学のユージン・ファーマとケネス・フレンチは、CAPM では説明できないリターンのパターンが体系的に存在することを実証しました。具体的には、時価総額の小さい企業 (小型株) が大型株よりも高いリターンを示す「サイズ効果」と、PBR (株価純資産倍率) の低い企業 (バリュー株) が高 PBR 企業 (グロース株) よりも高いリターンを示す「バリュー効果」です。

1993 年に発表された 3 ファクターモデルは、株式のリターンを 3 つの要因で説明します。第一は市場ファクター (Rm - Rf) で、市場全体のリターンから無リスク金利を差し引いたものです。第二はサイズファクター (SMB: Small Minus Big) で、小型株ポートフォリオのリターンから大型株ポートフォリオのリターンを差し引いたものです。第三はバリューファクター (HML: High Minus Low) で、高簿価時価比率 (バリュー株) のリターンから低簿価時価比率 (グロース株) のリターンを差し引いたものです。この 3 ファクターで株式リターンの約 90% を説明できることが実証されています。

サイズ効果とバリュー効果はなぜ存在するのか

サイズ効果とバリュー効果がなぜ存在するかについては、大きく 2 つの解釈があります。リスクベースの解釈では、小型株やバリュー株は倒産リスクや流動性リスクが高いため、投資家がそのリスクに対する補償 (リスクプレミアム) を要求した結果として高いリターンが実現するとされます。小型株は経営基盤が脆弱で景気後退時に業績が悪化しやすく、バリュー株は財務的に困難な状況にある企業が多いため、これらの追加リスクに見合ったリターンが提供されるという論理です。リスクプレミアムと株式リターンの関連書籍でも、この論争の両面が詳しく分析されています。

もう一つの解釈は行動ファイナンスに基づくもので、投資家の認知バイアスがこれらの効果を生み出しているとする立場です。投資家は大型の有名企業やグロース株に過度な期待を寄せ、割高な価格で購入する傾向があります。一方、地味な小型株や業績不振のバリュー株は過度に敬遠され、割安に放置されます。この価格の歪みが修正される過程で、小型株やバリュー株に超過リターンが発生するという説明です。どちらの解釈が正しいかは学術的にも決着がついていませんが、実務上はどちらの解釈であっても、ファクターへのエクスポージャーを意識した投資が有効であることに変わりはありません。

3 ファクターモデルを個人投資家が活用する方法

個人投資家が 3 ファクターモデルを活用する最も実践的な方法は、ポートフォリオのファクターエクスポージャーを意識的に調整することです。全世界株式インデックスファンドは市場ファクターへのエクスポージャーを提供しますが、サイズファクターとバリューファクターへのエクスポージャーは限定的です。小型株インデックスファンドやバリュー株インデックスファンドを追加することで、これらのファクターへのエクスポージャーを高められます。

ただし、ファクターリターンは短期的には大きく変動し、数年単位でマイナスになることもあります。ファクター投資の実践ガイドで指摘されているように、2010 年代はグロース株がバリュー株を大幅にアウトパフォームし、バリューファクターの有効性に疑問が呈された時期でした。ファクター投資を実践するには、短期的な不振に耐える忍耐力と、長期的なファクタープレミアムの存在を信じる理論的な確信が不可欠です。

ファクター投資を始めるためのネクストアクション

3 ファクターモデルの知見を投資に活かすには、まず自分の現在のポートフォリオのファクターエクスポージャーを把握することが第一歩です。保有しているファンドの構成銘柄を確認し、大型株中心なのか小型株も含まれているか、グロース寄りかバリュー寄りかを評価します。全世界株式インデックスファンドのみを保有している場合、サイズファクターとバリューファクターへのエクスポージャーは限定的であることを認識してください。

ファクターへのエクスポージャーを高めたい場合は、小型株インデックスファンドやバリュー株インデックスファンドをポートフォリオの 10-20% 程度追加することを検討しましょう。ただし、ファクタープレミアムは 10 年単位で消失する期間もあるため、短期的な成果を期待せず、20 年以上の長期視点で取り組む覚悟が必要です。当サイトの複利計算ツールで、ファクターティルトありとなしのポートフォリオを比較し、期待リターンの差が長期でどの程度の資産差になるかを確認してみてください。