同じ平均リターンでも結果が変わる

資産を積み立てている段階では、リターンの順序 (良い年と悪い年の並び) は最終資産額にほとんど影響しません。しかし、資産を取り崩している段階では、リターンの順序が資産寿命を大きく左右します。これが収益配列リスク (Sequence of Returns Risk) です。

たとえば 3,000 万円の資産から毎年 150 万円を取り崩す場合を考えます。最初の 5 年間が好調 (年 +15%) で後半 5 年間が不調 (年 -5%) のケースと、最初の 5 年間が不調で後半が好調のケースでは、10 年間の平均リターンは同じ +5% ですが、最終資産額は大きく異なります。前者は約 3,200 万円が残りますが、後者は約 2,400 万円しか残りません。

退職直後の暴落が最も危険な理由

取崩し開始直後に暴落が起きると、資産が大きく減った状態で定額を引き出し続けることになり、資産の回復が困難になります。3,000 万円の資産が初年度に 30% 下落して 2,100 万円になり、そこから 150 万円を引き出すと残りは 1,950 万円です。元の 3,000 万円に戻るには約 54% の上昇が必要で、取崩しを続けながらこれを達成するのは極めて難しいです。

逆に、取崩し開始から数年間が好調であれば、資産が十分に成長した状態で後の暴落を迎えるため、影響は限定的です。つまり、退職後の最初の 5〜10 年間のリターンが、資産寿命を決定づけるのです。

30 年間の取崩しシミュレーション

3,000 万円の資産から毎年 120 万円 (月 10 万円) を取り崩す場合を、3 つのシナリオで比較します。シナリオ A (好調→不調): 最初の 15 年が年 +8%、後半 15 年が年 +2%。30 年後の残高は約 2,850 万円。シナリオ B (不調→好調): 最初の 15 年が年 +2%、後半 15 年が年 +8%。30 年後の残高は約 1,200 万円。シナリオ C (安定): 30 年間一定で年 +5%。30 年後の残高は約 2,100 万円。

平均リターンは 3 つとも年 5% ですが、結果は大きく異なります。シナリオ A と B の差は約 1,650 万円です。この差が収益配列リスクの本質であり、退職後の資産管理において最も注意すべきリスクです。退職後の資産運用書も参考になります。

収益配列リスクへの対策

対策の基本は、退職直後の取崩し額を抑えることです。定率取崩し (資産の 3〜4%) を採用すれば、資産が減った年は引き出し額も自動的に減り、資産の枯渇リスクを軽減できます。また、退職時に 2〜3 年分の生活費を現金で確保しておけば、暴落時に投資資産を売却せずに済みます。

もう一つの有効な対策は、退職前に株式比率を徐々に下げることです。退職 5 年前から株式比率を 80% → 50% に引き下げれば、暴落の影響を大幅に緩和できます。ターゲットデートファンドはこの調整を自動で行ってくれます。資産取崩し戦略の書籍も参考になります。

ネクストアクション - 取崩し戦略を計画する

退職が近い方は、取崩し戦略を具体的に計画しましょう。(1) 退職時に 2〜3 年分の生活費を現金で確保する、(2) 定率取崩し (年 3.5〜4%) を基本とする、(3) 暴落時は取崩し額を一時的に減らすルールを決めておく。この 3 つを実行するだけで、収益配列リスクを大幅に軽減できます。

当サイトのシミュレーターで、さまざまな取崩しシナリオを試してみてください。取崩し額と想定利率を変えることで、資産がどのくらい持つかを確認できます。