基本スペック比較 - 2 つの S&P500 3 倍 ETF

UPRO (ProShares UltraPro S&P500) と SPXL (Direxion Daily S&P 500 Bull 3X Shares) は、いずれも S&P500 指数の日次リターンの 3 倍を目指すレバレッジ ETF である。同じ指数に同じ倍率で連動するため、理論上のリターンは同一のはずだが、実際には微妙な差異が存在する。

UPRO は ProShares が運用し、2009 年 6 月 25 日に設定された。経費率は年 0.91%、純資産額は約 35 億ドル (2025 年時点)。一方、SPXL は Direxion が運用し、2008 年 11 月 5 日に設定された。経費率は年 0.97%、純資産額は約 40 億ドルである。

経費率の差は年 0.06% (6 ベーシスポイント) と小さいが、長期保有では複利で効いてくる。100 万円を 10 年間保有した場合、この経費率差は約 6,000-8,000 円の差を生む。決定的な差ではないが、他の条件が同じであれば経費率の低い UPRO が有利である。

設定日は SPXL の方が約 7 ヶ月早い。これは 2008 年 11 月というリーマンショックの最中に設定されたことを意味し、設定直後から急落を経験した。UPRO は 2009 年 6 月、つまり底値からの回復が始まった後に設定されたため、設定来リターンでは UPRO の方が見栄えが良い。

トラッキング精度の比較 - 日次乖離率の統計

レバレッジ ETF の品質を測る最も重要な指標は、目標とする日次リターン (S&P500 × 3) からの乖離率 (トラッキングエラー) である。完璧な ETF であれば、毎日正確に S&P500 の 3 倍のリターンを実現するが、実際には経費率、スワップコスト、リバランスのタイミングなどにより微小な乖離が生じる。

2020-2024 年の 5 年間のデータで比較すると、UPRO の日次トラッキングエラー (標準偏差) は約 0.02-0.03% であり、SPXL は約 0.03-0.04% である。UPRO の方がわずかに精度が高い。これは ProShares のスワップ契約の条件が Direxion よりやや有利である可能性を示唆する。

日次の乖離は微小だが、年間で累積すると無視できない差になる。年間約 250 営業日で、毎日 0.01% の乖離が一方向に累積した場合、年間で 2.5% の差が生じる。実際にはランダムに上下するため累積効果は小さいが、経費率の差と合わせて年間 0.1-0.3% 程度の差が UPRO 有利に働く傾向がある。

ただし、この差は市場環境によって変動する。ボラティリティが極端に高い局面 (VIX 40 以上) では、スワップ市場の流動性低下によりトラッキングエラーが拡大する。2020 年 3 月のコロナショック時には、両 ETF とも日次で 1-2% の乖離が発生した日があった。

流動性の比較 - 出来高とスプレッド

流動性は ETF 選択において重要な要素である。SPXL の 1 日平均出来高は約 800 万株、UPRO は約 600 万株で、SPXL の方がやや流動性が高い。ただし、両者とも個人投資家の通常の取引規模 (数百万円程度) であれば全く問題ない水準である。

ビッド・アスクスプレッドは両者とも通常時で 0.01-0.02% 程度と極めて狭い。ただし、市場開始直後 (9:30-10:00 EST) や引け間際 (15:45-16:00 EST) はスプレッドが拡大する傾向がある。大口注文 (100 万ドル以上) を出す場合は、SPXL の方が出来高が多い分、マーケットインパクトが小さい可能性がある。

オプション市場の流動性では、UPRO の方がやや優位である。UPRO のオプション出来高は SPXL を上回っており、カバードコールやプロテクティブプットなどのオプション戦略を併用する投資家にとっては UPRO が使いやすい。

ETF の流動性は純資産額にも関係する。純資産額が大きい ETF は、マーケットメーカーが積極的に流動性を提供するため、スプレッドが狭く保たれやすい。SPXL (約 40 億ドル) と UPRO (約 35 億ドル) はほぼ同規模であり、この点での差は小さい。

税効率と分配金の比較

レバレッジ ETF の税効率は、通常の ETF とは異なる考慮が必要である。UPRO と SPXL はいずれも年 1 回の分配金を支払うが、その額は年によって大きく変動する。2023 年の分配金利回りは UPRO が約 0.5%、SPXL が約 0.3% であった。

分配金の源泉は主にスワップ契約から受け取る金利収入と、ポートフォリオのリバランスに伴う実現キャピタルゲインである。金利が高い環境ではスワップの受取金利が増加し、分配金が増える傾向がある。2022-2024 年の高金利環境では、両 ETF とも分配金が増加した。

日本の投資家にとっては、米国 ETF の分配金には米国で 10% の源泉徴収が行われ、さらに日本で約 20% の課税がなされる (外国税額控除の適用は可能)。分配金が少ない方が税効率は高いため、この点では SPXL がわずかに有利である。

ただし、レバレッジ ETF の主なリターンはキャピタルゲインであり、分配金の差は全体のリターンに対して微小である。税効率を重視するなら、分配金の多寡よりも、売却タイミングの税務計画 (損益通算NISA 枠の活用) の方が遥かに重要である。

長期パフォーマンスの差 - 微差の理由

2010-2024 年の 15 年間で、UPRO と SPXL のトータルリターンを比較すると、UPRO が年率で約 0.1-0.3% 上回る傾向がある。15 年間の累積では約 2-5% の差となる。100 万円投資した場合、最終的に数万円の差が生じる程度であり、決定的な差ではない。

この微差の主な要因は経費率の差 (0.06%) とトラッキング精度の差である。経費率は毎日確実に差し引かれるため、長期では複利で効いてくる。トラッキング精度の差はランダム要素が大きいが、平均的には UPRO がわずかに有利な傾向がある。

ただし、特定の年では SPXL が UPRO を上回ることもある。2020 年のコロナショックとその後の回復局面では、SPXL の方がわずかに高いリターンを記録した。これはリバランスのタイミングや、スワップ契約の条件の違いによるものと推測される。

結論として、UPRO と SPXL の長期パフォーマンスの差は統計的に有意とは言い難い水準である。どちらを選んでも、投資成果に決定的な影響を与えることはない。選択の基準は、経費率のわずかな差よりも、流動性、オプション市場の充実度、証券会社での取り扱い状況など、実務的な要素で判断すべきである。

どちらを選ぶべきか - 実務的な結論

UPRO と SPXL の選択は、投資家の具体的なニーズによって決まる。経費率を最優先するなら UPRO (0.91% vs 0.97%)。出来高と流動性を重視するなら SPXL (800 万株/日 vs 600 万株/日)。オプション戦略を併用するなら UPRO (オプション出来高が多い)。

日本の証券会社での取り扱い状況も確認すべきである。SBI 証券、楽天証券、マネックス証券などの主要ネット証券では、UPRO と SPXL の両方が取引可能だが、取り扱い銘柄は変更される可能性がある。投資を開始する前に、利用する証券会社で確実に売買できることを確認すること。

長期保有を前提とするなら、経費率の低い UPRO がわずかに有利である。年 0.06% の差は 20 年で約 1.2% の累積差を生む。一方、頻繁に売買するトレーダーにとっては、出来高の多い SPXL の方がスリッページが小さく有利な場合がある。

最も重要なのは、UPRO か SPXL かの選択ではなく、S&P500 3 倍レバレッジ ETF をポートフォリオにどう組み込むかという戦略設計である。ETF 投資の実践書でポートフォリオ構築の理論を学び、レバレッジ ETF の適切な配分比率を決定することが、銘柄選択以上に重要である。