主要 3 倍 ETF 20 銘柄の基本スペック
3 倍レバレッジ ETF は数十銘柄が上場しているが、流動性と純資産額の観点から実用的な銘柄は約 20 に絞られる。以下に主要 20 銘柄の基本情報を整理する。ブル型: TQQQ (NASDAQ100)、UPRO (S&P500)、SOXL (半導体)、TNA (Russell2000)、FAS (金融)、TECL (テクノロジー)、FNGU (FANG+)、NAIL (住宅建設)、DPST (地方銀行)、TMF (長期国債)、LABU (バイオテクノロジー)、CURE (ヘルスケア)。
ベア型: SQQQ (NASDAQ100 インバース)、SPXS (S&P500 インバース)、TZA (Russell2000 インバース)、FAZ (金融インバース)、TMV (長期国債インバース)、SOXS (半導体インバース)、LABD (バイオ インバース)、ERX (エネルギー ブル 3 倍)。
経費率は概ね 0.90-1.01% の範囲に収まる。ProShares (TQQQ, SQQQ, UPRO, SPXS) が 0.88-0.95%、Direxion (SOXL, TNA, FAS, NAIL 等) が 0.94-1.01% だ。経費率の差は年間 0.1% 程度であり、ボラティリティ減価と比較すれば無視できる水準だ。
年間ボラティリティ減価率の比較
ボラティリティ減価率はベース指数のボラティリティから推定できる。近似式は 年間減価率 ≈ -9σ²×252/2 (σ は日次ボラティリティ) だ。各 ETF のベース指数の日次ボラティリティと推定年間減価率を示す。
低減価グループ (年間 -10% 以下): UPRO/SPXS (S&P500, σ=1.0%, 減価 -11%)、TMF/TMV (長期国債, σ=0.9%, 減価 -9%)。中減価グループ (年間 -15〜25%): TQQQ/SQQQ (NASDAQ100, σ=1.4%, 減価 -22%)、FAS/FAZ (金融, σ=1.3%, 減価 -19%)。高減価グループ (年間 -25% 以上): SOXL/SOXS (半導体, σ=1.8%, 減価 -37%)、TNA/TZA (Russell2000, σ=1.3%, 減価 -19%)、LABU/LABD (バイオ, σ=2.0%, 減価 -45%)。
この減価率は「横ばい相場での年間損失」を意味する。LABU のように年間 -45% の減価が見込まれる商品は、ベース指数が年 +15% 以上上昇しなければ長期でプラスリターンを維持できない。複利の観点から、減価率はレバレッジ ETF 選択の最重要指標だ。
最大ドローダウンランキング (過去 10 年)
過去 10 年間の最大ドローダウン (ピークからの最大下落率) をランキングする。1 位: LABU -99.5% (2021 年ピーク → 2022 年底)、2 位: DPST -92% (2022 年 → 2023 年 SVB 危機)、3 位: SOXL -90% (2021 年 → 2022 年)、4 位: FNGU -88% (2021 年 → 2022 年)、5 位: TNA -85% (2018 年 → 2020 年 3 月)。
比較的「マシ」な銘柄: UPRO -76% (2020 年 3 月)、TMF -73% (2022 年)、FAS -70% (2020 年 3 月)。最大ドローダウンが -90% を超える商品は、事実上「全損に近い経験をする可能性がある」ことを意味する。-90% からの回復には +900% のリターンが必要であり、これは 3 倍レバレッジでも 3-5 年を要する。
インバース ETF のドローダウンは定義上 -100% に近づく (長期で確実に減価するため)。SQQQ、SPXS、TZA はいずれも設定来で -99% 以上の累積損失を記録しており、長期保有は事実上不可能だ。
ドローダウンからの回復期間比較
最大ドローダウンからの回復期間 (元の水準に戻るまでの日数) は、投資家の忍耐力を試す指標だ。TQQQ: 2020 年 3 月の -70% から約 6 ヶ月で回復。SOXL: 2022 年の -90% から 2024 年 6 月時点で未回復 (約 2 年経過)。UPRO: 2020 年 3 月の -76% から約 8 ヶ月で回復。
回復期間はベース指数の長期リターンに大きく依存する。NASDAQ100 (年 +12%) をベースとする TQQQ は回復が速いが、Russell 2000 (年 +7%) をベースとする TNA は回復に時間がかかる。セクター ETF (SOXL, NAIL, DPST) はセクター固有の要因により回復が不確実だ。
複利の観点から、回復期間中もボラティリティ減価は継続する。つまり、ベース指数が元の水準に戻っても、レバレッジ ETF は元の水準に戻らない。TQQQ の場合、NASDAQ100 が元に戻った時点で TQQQ はまだ -20〜30% の位置にいることが多い。完全回復にはベース指数がさらに上昇する必要がある。
流動性ランキングと取引コスト
流動性 (日次出来高) は取引コストに直結する。出来高が多いほどビッド・アスクスプレッドが狭く、大口注文でもスリッページが小さい。流動性トップ 5: TQQQ (1 日 1 億株超)、SQQQ (8,000 万株)、SOXL (5,000 万株)、UPRO (3,000 万株)、SPXS (2,000 万株)。
流動性が低い銘柄: NAIL (100 万株)、DPST (50 万株)、CURE (30 万株)、LABU (200 万株)。これらの銘柄では、100 万ドル以上の注文を出すとスリッページが 0.5-1% に達する可能性がある。短期トレードでは取引コストが累積するため、流動性の高い銘柄を優先すべきだ。
ビッド・アスクスプレッドの目安: TQQQ 0.01% 以下、SOXL 0.02%、UPRO 0.02%、NAIL 0.05-0.10%、DPST 0.10-0.20%。スプレッドは往復で発生するため、頻繁に売買する場合は年間コストとして無視できない。
セクター別の特性マトリクス
各セクターの特性を「長期トレンド」「ボラティリティ」「金利感応度」「景気感応度」の 4 軸で整理する。テクノロジー (TQQQ, TECL): 長期上昇トレンド強、ボラティリティ高、金利感応度中、景気感応度中。半導体 (SOXL): 長期上昇トレンド強、ボラティリティ極高、金利感応度中、景気感応度高。
金融 (FAS, DPST): 長期上昇トレンド弱、ボラティリティ中、金利感応度極高、景気感応度高。住宅 (NAIL): 長期上昇トレンド中、ボラティリティ高、金利感応度極高、景気感応度高。債券 (TMF, TMV): 長期トレンドは金利環境依存、ボラティリティ中、金利感応度極高、景気感応度中。
長期保有に最も適しているのは「長期上昇トレンドが強く、ボラティリティが相対的に低い」セクターだ。この基準では UPRO (S&P500) が最もバランスが良く、次いで TQQQ (NASDAQ100) が続く。セクター ETF は短期〜中期のタクティカルな使い方に限定すべきだ。
投資目的別のおすすめ
短期トレード (数日〜数週間) 向き: TQQQ、SQQQ、SOXL、SOXS。流動性が高く、スプレッドが狭い。ボラティリティが高いため短期でも十分なリターンが得られる。テクニカル分析との相性が良い。
中期保有 (数ヶ月) 可能: UPRO、TQQQ、TMF (利下げ局面)、TMV (利上げ局面)。ベース指数の長期トレンドが明確で、数ヶ月程度ならボラティリティ減価を上回るリターンが期待できる。ただし、トレンド転換のリスクは常に意識すべきだ。ETF 投資の入門書で基礎を固めてからレバレッジ ETF に進むことを強く推奨する。
ヘッジ用途 (短期のみ): SQQQ、SPXS、TZA。既存ポジションの一時的な保護に使用する。保有期間は最長 2 週間。それ以上はプットオプションの方が効率的だ。
3 倍 ETF 投資の大原則まとめ
第一原則: ボラティリティ減価を理解せよ。3 倍 ETF は「ベース指数の 3 倍のリターン」を長期で提供しない。日次 3 倍であり、複利効果により長期リターンは 3 倍から乖離する。この乖離は常にマイナス方向に働く。
第二原則: ポジションサイズを厳格に管理せよ。3 倍 ETF はポートフォリオ全体の 10-20% 以下に限定すべきだ。-80% のドローダウンが現実に起こりうる商品に全資産を投入することは、投資ではなくギャンブルだ。
第三原則: インバース ETF を長期保有するな。ブル型は長期上昇トレンドに乗れる可能性があるが、ベア型は数学的に長期保有が不可能だ。インバース ETF は数日〜数週間の短期ツールとしてのみ使用せよ。
第四原則: 流動性を確認せよ。ニッチセクター ETF は流動性が低く、急落時にスプレッドが拡大する。取引コストが累積するため、流動性の高い銘柄 (TQQQ, SOXL, UPRO) を優先すべきだ。
第五原則: 複利計算を味方につけよ。レバレッジ ETF の長期リターンは、ベース指数のリターンとボラティリティの関数だ。μ > 3σ²/2 (リターンがボラティリティ減価を上回る) を満たすベース指数を選ぶことが、3 倍 ETF で長期的に利益を得る数学的条件である。