TQQQ + TMF 戦略の概要

TQQQ (NASDAQ100 ブル 3 倍) と TMF (20 年超国債ブル 3 倍) を一定比率で組み合わせ、定期的にリバランスする戦略は、レバレッジ ETF コミュニティで「HFEA (Hedgefundie's Excellent Adventure)」として知られる。代表的な配分は TQQQ 55% + TMF 45% で、月次または四半期ごとにリバランスする。

この戦略の核心は、株式と長期国債の負の相関を利用することだ。株式が暴落する局面では「質への逃避」により国債が買われ、TMF が上昇する。逆に株式が好調な時は国債が売られ TMF は下落するが、TQQQ の利益がそれを上回る。

リバランスにより、上昇した資産を売って下落した資産を買い増す「逆張り効果」が生まれる。これがボラティリティ・ハーベスティング (ボラティリティからの収穫) と呼ばれる現象で、複利リターンを押し上げる。

理論的背景 - 現代ポートフォリオ理論との関係

現代ポートフォリオ理論 (MPT) によれば、相関の低い資産を組み合わせることで、リターンを維持しながらリスク (ボラティリティ) を低減できる。効率的フロンティア上のポートフォリオは、同じリスクで最大のリターンを提供する。

TQQQ + TMF 戦略は、この理論をレバレッジ商品に適用したものだ。TQQQ 単体のボラティリティは年率 60-70% だが、TMF との組み合わせにより 40-50% に低減できる。ボラティリティの低減は、レバレッジ ETF にとって特に重要だ。なぜなら、ボラティリティ減価は σ² に比例するため、ボラティリティが 30% 低下すれば減価は約 50% 軽減される。

ただし、MPT は正規分布を前提としており、テールリスク (極端な事象) を過小評価する傾向がある。2022 年のように株式と債券が同時に下落する局面では、MPT の前提が崩れ、分散効果が消失する。

リバランスが複利に与える効果

リバランスの複利効果を具体的に示す。TQQQ が +50%、TMF が -20% の四半期があったとする。55/45 配分の場合、四半期末のウェイトは TQQQ 68% / TMF 32% に偏る。リバランスで TQQQ を売り TMF を買い増し、55/45 に戻す。

翌四半期に TQQQ が -30%、TMF が +25% となった場合、リバランスなしでは TQQQ 68% × 0.7 + TMF 32% × 1.25 = 47.6% + 40% = 87.6% (= -12.4%)。リバランスありでは TQQQ 55% × 0.7 + TMF 45% × 1.25 = 38.5% + 56.25% = 94.75% (= -5.25%)。リバランスにより損失が 7% 以上軽減された。

この効果は「ボラティリティ・ハーベスティング」と呼ばれ、資産間の相関が低いほど、ボラティリティが高いほど効果が大きくなる。レバレッジ ETF はボラティリティが極めて高いため、リバランス効果も大きい。年間 2-5% のリターン向上が期待できるとする研究もある。

10 年バックテスト結果 (2013-2023)

2013 年から 2023 年までの 10 年間で、TQQQ 55% + TMF 45% (月次リバランス) のバックテスト結果は以下のとおりだ。年平均リターン約 +35%、累積リターン約 +2,000%、最大ドローダウン -65% (2022 年)、シャープレシオ約 0.8。

比較として、S&P500 単体は同期間で年平均 +12%、累積 +220%、最大ドローダウン -34%、シャープレシオ 0.9 だった。TQQQ + TMF 戦略はリターンで圧倒的に上回るが、最大ドローダウンも大きく、シャープレシオでは S&P500 に劣る。

TQQQ 単体と比較すると、TQQQ 単体は年平均 +40%、累積 +3,500% だが、最大ドローダウンは -79% (2022 年) に達した。TMF を加えることで最大ドローダウンが -65% に軽減された一方、リターンも低下した。リスク調整後のリターンでは TQQQ + TMF が優位だ。

2022 年の問題 - 株も債券も同時に下落した年

2022 年は TQQQ + TMF 戦略にとって最悪の年だった。FRB の急速な利上げにより、株式 (TQQQ -79%) と長期国債 (TMF -73%) が同時に暴落した。株式と債券の負の相関という前提が完全に崩壊し、分散効果がゼロになった。

55/45 配分のポートフォリオは 2022 年に -65% の損失を記録した。TQQQ 単体の -79% よりはマシだが、「TMF がヘッジとして機能する」という期待は裏切られた。月次リバランスにより、下落する TMF を毎月買い増す結果となり、損失が拡大した。

この経験は、TQQQ + TMF 戦略の根本的な弱点を露呈した。インフレ局面では FRB が金利を引き上げるため、株式と債券の相関がプラスに転じる。1970 年代のスタグフレーション期にも同様の現象が観察されており、「株と債券は逆に動く」は常に成立する法則ではない。

配分比率の最適化

TQQQ と TMF の最適配分比率は、バックテスト期間によって大きく変わる。2013-2021 年 (金利低下トレンド) では TMF の比率を高めるほどシャープレシオが改善し、40/60 が最適に近かった。しかし 2022 年を含めると、TMF の比率が高いほど損失が拡大し、60/40 や 70/30 が有利になる。

一般的に推奨される配分は 55/45 から 60/40 の範囲だ。TQQQ の比率を高めるとリターンは上がるがドローダウンも深くなる。TMF の比率を高めると安定性は増すが、金利上昇局面での脆弱性が高まる。

リバランス頻度については、月次と四半期で大きな差はない。日次リバランスは取引コストが嵩み、年次リバランスは偏りが大きくなりすぎる。月次が実務的なバランスとして最も一般的だ。ポートフォリオ理論の関連書籍で現代ポートフォリオ理論の基礎を学ぶことは、この戦略を理解する上で不可欠だ。

この戦略の限界と注意点

TQQQ + TMF 戦略の最大の限界は、株式と債券の相関が安定しないことだ。過去 20 年間は概ね負の相関だったが、インフレ局面ではプラスに転じる。今後のインフレ動向次第では、この戦略の前提が長期的に崩れる可能性がある。

また、-65% のドローダウンに耐えられる投資家は少ない。理論上は「長期で回復する」と分かっていても、資産が 3 分の 1 になった状態でリバランスを続ける精神力が求められる。多くの投資家は底値付近で戦略を放棄し、損失を確定させてしまう。

この戦略を実行するなら、ポートフォリオ全体の一部 (20-30%) に限定し、残りは非レバレッジの分散ポートフォリオで構成すべきだ。全資産を TQQQ + TMF に投入することは、2022 年のような年に精神的・経済的に耐えられないリスクを負うことになる。