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カバードコール戦略の基礎

カバードコールとは、保有している株式 (または ETF) に対してコールオプションを売る戦略だ。コールオプションの売り手は、買い手に対して「特定の価格 (行使価格) で株式を売る義務」を負う代わりに、オプションプレミアム (対価) を受け取る。

例えば TQQQ を 100 株 ($50/株、合計 $5,000) 保有し、行使価格 $55 のコールオプションを 1 枚 (100 株分) 売ると、プレミアムとして $300 を受け取れる。TQQQ が満期時に $55 以下なら、プレミアム $300 が純利益となる。$55 を超えた場合は $55 で売却する義務が生じ、超過分の利益を放棄する。

カバードコールの本質は、上値の利益を放棄する代わりに確実なプレミアム収入を得るトレードオフだ。横ばいや緩やかな上昇相場で最も効果を発揮し、急騰相場では機会損失が発生する。

3 倍 ETF でカバードコールが特に有効な理由

オプションプレミアムはボラティリティに比例して高くなる。3 倍 ETF は通常の ETF の 3 倍のボラティリティを持つため、オプションプレミアムも格段に高い。TQQQ の 30 日インプライドボラティリティ (IV) は通常 60-90% であり、QQQ の 20-30% と比較して 3 倍だ。

高い IV は高いプレミアムを意味する。TQQQ の ATM (現在価格と同じ行使価格) の月次コールオプションのプレミアムは、株価の 8-12% に達する。QQQ の同条件では 3-4% 程度だ。年間に換算すると、TQQQ のカバードコールは株価の 96-144% のプレミアム収入を生む計算になる。

一方、3 倍 ETF はボラティリティ減価により年間 5-15% のコストが発生する。カバードコールのプレミアム収入 (年間 96-144%) はこの減価コストを大幅に上回り、ネットで見れば減価を完全に相殺した上で追加リターンを生む。これが 3 倍 ETF × カバードコールの核心的な魅力だ。

TQQQ のオプションプレミアム水準

TQQQ のオプション市場は流動性が高く、ビッド・アスクスプレッドも比較的狭い。2024 年時点の典型的なプレミアム水準は以下の通りだ。ATM (デルタ 50) の月次コール: 株価の 10-12%。OTM 30 デルタ (行使価格が現在価格の約 +8% 上) の月次コール: 株価の 5-7%。OTM 15 デルタ (行使価格が現在価格の約 +15% 上) の月次コール: 株価の 2-4%。

30 デルタのコールを毎月売る戦略では、月次プレミアムが株価の 5-7%、年間で 60-84% の収入が得られる。行使される確率は約 30% であり、10 回中 7 回はプレミアムを丸ごと受け取れる計算だ。

IV が高い時期 (VIX 30 以上) にはプレミアムがさらに膨らみ、30 デルタでも株価の 10% 以上を受け取れることがある。逆に IV が低い時期 (VIX 15 以下) ではプレミアムが縮小し、カバードコールの魅力が低下する。IV の水準に応じてデルタを調整する柔軟性が求められる。

プレミアム収入 vs ボラティリティ減価のバランス

3 倍 ETF のボラティリティ減価は、年間ボラティリティの 2 乗に比例する。TQQQ の年間ボラティリティが 60% の場合、減価率は約 0.6² / 2 = 18% だ。ボラティリティが 80% に上昇すると、減価率は 0.8² / 2 = 32% に跳ね上がる。

カバードコール (30 デルタ、月次) のプレミアム収入は年間 60-84% であり、減価率 18-32% を大幅に上回る。ネットのプレミアム収入 (プレミアム - 減価) は年間 28-66% となり、これが TQQQ の値動きに上乗せされるリターンだ。

ただし、カバードコールは上値を制限するため、TQQQ が月間 +20% 以上急騰した場合、超過分の利益を放棄する。2023 年 11 月に TQQQ が月間 +35% 上昇した局面では、30 デルタカバードコールの投資家は +8% (行使価格まで) + プレミアム 6% = +14% に留まり、+21% の機会損失が発生した。

具体的な運用例 - 月次 30 デルタコール売り

TQQQ 200 株 ($50/株、合計 $10,000) を保有し、毎月第 3 金曜日 (オプション満期日) の翌営業日に、翌月満期の 30 デルタコールを 2 枚売る。プレミアムは 1 枚あたり $300 (株価の 6%)、合計 $600/月だ。

満期時に TQQQ が行使価格以下なら、$600 が利益として確定し、翌月のコールを新たに売る (ロールオーバー)。行使価格を超えた場合は、200 株が行使価格で売却される。翌営業日に同じ株数を市場価格で買い戻し、新たにカバードコールを設定する。

年間のプレミアム収入は $600 × 12 = $7,200 で、投資額 $10,000 に対して 72% のリターンだ。TQQQ 自体の値動きが ±0% だった場合でも、カバードコールだけで +72% のリターンが得られる計算になる。複利で考えると、このプレミアム収入を再投資することで、2 年目以降は加速度的にリターンが成長する。

バックテスト結果 - TQQQ 単体 vs カバードコール付き

2019-2024 年の 5 年間で、TQQQ 買い持ちの年率リターンは +32%、最大ドローダウンは -72% だった。同期間に 30 デルタの月次カバードコールを組み合わせた場合、年率リターンは +28%、最大ドローダウンは -58% だった。

リターンは 4% 低下したが、最大ドローダウンが 14% 改善された。シャープレシオは TQQQ 単体の 0.62 からカバードコール付きの 0.89 に向上し、リスク調整後のパフォーマンスは明確に改善している。

特に 2022 年の下落局面では、カバードコールのプレミアム収入が損失を月 5-7% 緩和した。TQQQ 単体が -72% だった期間に、カバードコール付きは -58% に留まった。プレミアム収入がクッションとして機能し、複利の毀損を軽減した好例だ。

リスクと実践的な注意点

カバードコールの最大のリスクは、急騰時の機会損失だ。TQQQ が 1 ヶ月で +50% 上昇した場合、カバードコールの投資家は行使価格 (+8%) + プレミアム (6%) = +14% に制限される。+36% の機会損失は心理的に大きい。

流動性の問題も考慮すべきだ。TQQQ のオプションは流動性が高いが、満期が近い (1 週間以内) オプションや、極端に OTM のオプションはスプレッドが広がる。ビッド・アスクスプレッドが $0.10 を超える場合は、約定コストがプレミアムを侵食する。

税金面では、オプションプレミアムは短期キャピタルゲインとして課税される (日本では雑所得)。毎月プレミアムを受け取るため、課税が毎年発生し、複利効果が削がれる。税引後のネットリターンで評価すると、カバードコールの優位性は縮小する。

実践的には、IV が低い時期 (VIX 15 以下) にはカバードコールを休止し、TQQQ の上昇をフルに享受する判断も有効だ。IV が高い時期にのみカバードコールを実行する「選択的カバードコール」は、バックテストで通年カバードコールより年率 3-5% 高いリターンを示している。

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