1774 年、アムステルダムで生まれた金融イノベーション

世界最古の投資信託は、1774 年にオランダの商人アブラハム・ファン・ケトウィッヒによってアムステルダムで設立された「Eendragt Maakt Magt」(団結は力なり) です。この名前はオランダ共和国のモットーから取られました。ファン・ケトウィッヒがこの仕組みを考案した背景には、1772 年の金融危機がありました。イギリスの銀行が連鎖的に破綻し、オランダの投資家も大きな損失を被ったのです。

ファン・ケトウィッヒの革新的なアイデアは「小口の資金を集めて多数の債券に分散投資する」というものでした。当時、個人投資家が十分な分散投資を行うには莫大な資金が必要でした。Eendragt Maakt Magt は 2,000 口の証券を発行し、集めた資金をオーストリア、デンマーク、ドイツ、スペイン、スウェーデン、ロシアなどの政府債券と、プランテーション債券に分散投資しました。1 つのファンドで 50 以上の異なる債券に投資するという、現代の投資信託と本質的に同じ構造です。

250 年間に起きたこと - 戦争、革命、恐慌を超えて

1774 年から 2026 年までの 252 年間に、世界は想像を絶する変動を経験しました。アメリカ独立戦争 (1775 年)、フランス革命 (1789 年)、ナポレオン戦争 (1803〜1815 年)、二度の世界大戦、大恐慌 (1929 年)、オイルショック、リーマンショック、コロナショック。オランダ自体もナポレオンに征服され、ドイツに占領され、通貨がギルダーからユーロに変わりました。

Eendragt Maakt Magt は 1824 年に清算されましたが、約 50 年間運用されました。その間、投資家には年 4% 前後の配当が支払われたとされています。50 年間年 4% の複利で計算すると、元本は約 7.1 倍になります。ファン・ケトウィッヒの後継として設立された類似のファンドは、さらに長期間運用されたものもあります。重要なのは、この 250 年前の金融イノベーションが、現代の投資信託の基本設計とほぼ同じだったという事実です。分散投資、プロによる運用、小口化による参加障壁の低減。これらの原則は 250 年経っても変わっていません。

ベンジャミン・フランクリンの 200 年複利実験

長期複利の実例として、ベンジャミン・フランクリンの遺言による信託基金も注目に値します。フランクリンは 1790 年の遺言で、ボストンとフィラデルフィアの両市にそれぞれ 1,000 ポンド (当時約 4,400 ドル) を遺贈し、200 年間の複利運用を指示しました。100 年後に一部を引き出して公共事業に使い、残りをさらに 100 年間運用するという設計です。

1990 年に 200 年の運用期間が満了したとき、ボストンの基金は約 500 万ドルに成長していました。4,400 ドルが 200 年で 500 万ドル、約 1,136 倍です。年平均リターンに換算すると約 3.5% です。一方、フィラデルフィアの基金は約 200 万ドルにとどまりました。同じ初期資金、同じ運用期間でも、運用方針と途中の引き出しタイミングの違いで 2.5 倍の差が生じたのです。この実験は、複利の威力と同時に、運用の質と一貫性が長期リターンを大きく左右することを実証しています。投資信託の歴史を扱った書籍には、こうした長期運用の実例がさらに豊富に紹介されています。

超長期投資が教える 3 つの普遍的教訓

第一の教訓は「分散投資の原則は 250 年間変わらない」ということです。ファン・ケトウィッヒが 1774 年に実践した「複数の国の債券に分散する」という戦略は、現代のグローバル分散投資と本質的に同じです。個別の国や企業は破綻しても、十分に分散されたポートフォリオは生き残ります。

第二の教訓は「複利は中断させないことが最も重要」ということです。フランクリンの基金でボストンとフィラデルフィアに差が生じた主因は、途中の引き出しと運用方針の違いでした。複利の力は、途切れなく再投資を続けることで最大化されます。暴落時に売却して複利の連鎖を断ち切ることが、長期リターンを最も大きく毀損する行為です。

第三の教訓は「制度やルールは変わるが、数学は変わらない」ということです。250 年の間に通貨、税制、金融規制、政治体制は何度も変わりました。しかし、(1 + r)^n という複利の数式は 1 ミリも変わっていません。投資の世界で唯一確実に信頼できるのは、流行りの投資手法でも、カリスマ投資家の予測でもなく、複利の数学です。

250 年の歴史を自分の投資に活かすネクストアクション

250 年前の投資家と同じ原則を、今日から実践しましょう。まず、自分のポートフォリオが十分に分散されているか確認してください。日本株だけ、米国株だけに偏っていないか。次に、配当金や分配金が自動的に再投資される設定になっているか確認します。複利の連鎖を途切れさせない仕組みが整っているかが重要です。最後に、「自分の投資期間はあと何年あるか」を計算してください。30 歳なら 65 歳まで 35 年、40 歳でも 25 年あります。250 年には及びませんが、複利が十分に威力を発揮する時間です。