退職後に必要な収入額を見積もる

退職後の生活費は現役時代の 70-80% が目安とされますが、実際には個人差が大きいです。総務省の家計調査 (2024 年平均) によると、夫 65 歳以上・妻 60 歳以上の夫婦のみの無職世帯では、消費支出が月額約 26 万円です。ここに医療費の増加、住宅の修繕費、趣味や旅行の費用を加えると、ゆとりある老後には月 35-38 万円が必要とされています。一方、公的年金の平均受給額は夫婦合計で月 22-25 万円程度であり、毎月 10-15 万円の不足が生じます。

この不足分を 30 年間 (65 歳から 95 歳) 補填するには、3,600-5,400 万円の資産が必要という計算になります。いわゆる「老後 2,000 万円問題」は最低限の試算であり、ゆとりある生活を望むなら 4,000-5,000 万円という水準も想定されますが、これは一定の前提を置いた試算であり、必要額は生活水準・年金額・想定する年数によって変わります。退職金がある場合はその分を差し引けますが、退職金の額は企業規模・勤続年数・退職金制度の有無によって大きく異なり、そもそも制度が無い勤務先もあります。自分の勤務先の規定で見込み額を確認してから試算してください。

3 つの収入源を組み合わせる設計手法

退職後の収入は「公的年金」「配当・利子収入」「資産の取崩し」の 3 本柱で設計します。2026 年時点の制度では、公的年金は繰下げ受給 (最大 75 歳まで) を選択すると 1 か月あたり 0.7% 増額され、70 歳まで繰り下げれば 42% 増、75 歳なら 84% 増になります。65 歳時点で月 15 万円の年金が、70 歳繰下げで約 21.3 万円に増えるため、他の収入源で 65-70 歳の生活費を賄えるなら繰下げは有力な選択肢です。

配当収入は、高配当株式や REIT を組み合わせることで安定的なキャッシュフローを生み出せます。ただし、配当は減配リスクがあるため、複数の銘柄やセクターに分散することが重要です。

資産取崩しの最適なペースを決める

資産の取崩しでは「4% ルール」が広く知られています。これは退職時の資産の 4% を初年度に取り崩し、以降はインフレ率に応じて取崩し額を調整する方法です。この考え方は 1998 年に米国のトリニティ大学の研究者が発表した「トリニティスタディ」に由来し、1926〜1995 年の米国市場データで株式 50%・債券 50% のポートフォリオを検証したところ、原典の分析では 30 年を通じて資産が枯渇しなかった期間の割合が 9 割を超えました。ただしこれは将来の確率ではなく過去のデータでの割合であり、資産が何年もつかは前提とする資産配分・期間・その間の相場によって変わるため、特定の成功率を保証するものではありません。日本の低リターン環境では、4% より保守的な取崩し率 (3-3.5% 程度) を用いる考え方が有力です。

取崩し順序も重要な戦略です。一般的には、課税口座の資産を先に取り崩し、NISA 口座や iDeCo の非課税資産は後に残すことで、税負担を最小化できます。

退職後の収入設計を今から始めるためのステップ

退職後の収入設計は、退職の 10-15 年前から始めるのが理想です。まず「ねんきんネット」で自分の年金見込額を確認し、退職後の月額収入のベースラインを把握します。次に、退職後の想定支出 (月額) を算出し、年金との差額が毎月いくらになるかを計算します。この差額 × 12 か月 × 30 年 (65-95 歳) が、退職までに準備すべき資産の目安です。

具体的なアクションとして、40 代なら iDeCo と NISA を併用した積立投資を最大化し、50 代後半からは徐々にポートフォリオを安定資産 (債券、高配当株) にシフトしていきます。退職 5 年前には、年金の繰下げ受給をするかどうかの判断材料を整理し、65-70 歳の生活費を賄える現金・債券を確保しておきましょう。退職後の収入源を「年金」「配当」「取崩し」の 3 本柱で設計し、どの柱がいつからいくら入るかを表にまとめることで、安心感のあるリタイアメントプランが完成します。