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ケリー基準の数学的説明

ケリー基準 (Kelly Criterion) は、長期的な資産成長率を最大化する最適な賭け金の割合を数学的に導出する公式だ。f* = (bp - q) / b という式で表される。ここで f* は最適投資比率、b は勝った場合の利益倍率、p は勝率、q は敗率 (1 - p) だ。

例えば勝率 60%、勝ちの利益が賭け金の 1.5 倍、負けの損失が賭け金の 1 倍の場合、f* = (1.5 × 0.6 - 0.4) / 1.5 = 0.33 となる。資産の 33% を投資するのが数学的に最適だ。これより多く投資すると破産リスクが急上昇し、少なく投資すると成長率が低下する。

ケリー基準の本質は、複利成長率 (幾何平均リターン) の最大化にある。算術平均リターンではなく幾何平均を最大化する点が重要で、これは長期投資における複利効果を正確に反映している。3 倍 ETF のように日次複利で価格が形成される商品には、ケリー基準の考え方が特に適合する。

3 倍 ETF へのケリー基準適用

3 倍 ETF にケリー基準を適用するには、月次リターンのデータから勝率と損益比を算出する。TQQQ の 2015-2025 年の月次データでは、勝率 (プラスリターンの月の割合) は 62%、平均勝ちリターンは +18.5%、平均負けリターンは -14.2% だった。

これをケリー基準に当てはめると、b = 18.5 / 14.2 = 1.30、p = 0.62、q = 0.38 となり、f* = (1.30 × 0.62 - 0.38) / 1.30 = 0.33 だ。つまりポートフォリオの 33% を TQQQ に配分するのが数学的に最適な比率となる。

ただしフルケリー (f* をそのまま適用) は実務上リスクが高すぎる。ケリー基準は「破産しない」ことを前提としているが、現実には心理的な耐性や生活資金の確保が必要だ。最大ドローダウンの観点では、フルケリーで TQQQ に 33% 配分した場合、2022 年のような下落局面でポートフォリオ全体が -24% 下落する計算になる。

TQQQ と SPXL の過去データでのケリー基準計算結果

SPXL (S&P 500 の 3 倍) の月次データでは、勝率 65%、平均勝ちリターン +12.8%、平均負けリターン -11.5% だ。ケリー基準では f* = (1.11 × 0.65 - 0.35) / 1.11 = 0.34 となり、TQQQ とほぼ同じ 34% が最適配分だ。

SOXL (半導体指数の 3 倍) は勝率 58%、平均勝ちリターン +24.3%、平均負けリターン -18.7% で、f* = 0.28 となる。ボラティリティが高い分、最適配分は低めに出る。これはケリー基準がリスク (分散) を適切に反映している証拠だ。

複数の 3 倍 ETF を組み合わせる場合、相関を考慮した多変量ケリー基準が必要になる。TQQQ と SPXL の相関係数は 0.85 と高いため、両方を保有しても分散効果は限定的だ。TQQQ と TMF (長期国債 3 倍) の相関は -0.35 であり、組み合わせることでケリー基準上の最適配分を引き上げられる。

フルケリー vs 半ケリー vs 1/4 ケリー

フルケリー (f* = 33%) は理論上の最適解だが、最大ドローダウンが -50% を超える可能性がある。心理的に耐えられる投資家は少なく、パニック売りを誘発するリスクが高い。

半ケリー (f*/2 = 16.5%) は、成長率をフルケリーの 75% に維持しつつ、最大ドローダウンを約半分に抑える。リスクとリターンのバランスが最も良く、多くの投資家に推奨される水準だ。2022 年の下落局面でも、ポートフォリオ全体の損失は -12% 程度に収まる。

1/4 ケリー (f*/4 = 8%) は保守的な配分で、成長率はフルケリーの 44% に低下するが、最大ドローダウンは -6% 程度に抑えられる。3 倍 ETF 初心者や、リスク許容度が低い投資家に適している。

実務的な推奨は、投資経験と心理的耐性に応じて半ケリーから 1/4 ケリーの間で配分を決定することだ。過去に -20% 以上のドローダウンを経験しても売却しなかった実績がある投資家は半ケリー、そうでなければ 1/4 ケリーから始めるのが安全だ。

ポートフォリオ全体での位置づけ - コア・サテライト戦略

コア・サテライト戦略では、ポートフォリオの 80-90% をコア (インデックスファンド債券など低リスク資産) で構成し、残り 10-20% をサテライト (3 倍 ETF など高リスク資産) に配分する。この構造はケリー基準の半ケリーから 1/4 ケリーの範囲と整合する。

コア部分が安定したリターンを生み出す一方、サテライトの 3 倍 ETF がポートフォリオ全体のリターンを押し上げる。仮にコアが年率 +7%、サテライト (15% 配分) が年率 +30% の場合、ポートフォリオ全体のリターンは +10.5% となる。コアのみの +7% と比較して +3.5% のアルファが得られる。

サテライトが全損した場合でも、ポートフォリオ全体の損失は 15% に限定される。この「最悪のシナリオでも致命的にならない」設計が、3 倍 ETF を安全に活用する鍵だ。複利の観点では、コアの安定成長がサテライトの損失を吸収し、長期的な資産成長を維持する。

年齢・資産額別の推奨配分

20 代 (資産 500 万円以下、人的資本が大きい): 3 倍 ETF に 20-25% を配分可能。仮に全損しても人的資本 (将来の労働収入) で回復できるため、積極的なリスクテイクが合理的だ。

30 代 (資産 1,000-3,000 万円): 15-20% が目安。家族形成や住宅購入を控えている場合は 10% に抑える。人的資本はまだ大きいが、ライフイベントに備えた流動性確保も必要だ。

40 代 (資産 3,000-5,000 万円): 10-15% が適切。資産額が大きくなるにつれ、同じパーセンテージでも絶対額のリスクが増大する。3,000 万円の 15% は 450 万円であり、全損した場合の心理的ダメージは無視できない。

50 代以降 (資産 5,000 万円以上): 5-10% に抑える。退職までの期間が短く、損失を回復する時間が限られる。3 倍 ETF の配分を段階的に縮小し、60 代までにゼロにするグライドパスを設計すべきだ。

最大損失許容額からの逆算

ポジションサイジングを感覚ではなく数字で決めるには、最大損失許容額から逆算する方法が有効だ。まず「3 倍 ETF で最悪いくら失っても生活に支障がないか」を金額で定義する。例えば 200 万円が許容限度なら、3 倍 ETF の最大ドローダウン (-80% を想定) から逆算して、投資額は 250 万円が上限となる。

この 250 万円が総資産の何%に当たるかで、ケリー基準との整合性を確認する。総資産 2,000 万円なら 12.5% (1/4 ケリーに近い)、総資産 1,000 万円なら 25% (半ケリーに近い) だ。

最大損失許容額は、6 ヶ月分の生活費を確保した上で設定すること。生活防衛資金を 3 倍 ETF のリスクに晒してはならない。複利効果を最大化するには長期保有が前提であり、生活資金の不足で途中売却を強いられる事態は避けなければならない。

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