4% ルールの起源
安全引き出し率 (Safe Withdrawal Rate, SWR) の議論で最も有名なのが「4% ルール」です。1994 年にファイナンシャルプランナーのウィリアム・ベンゲンが発表した研究に基づきます。1926 年から 1992 年までの米国株式 50%・米国債券 50% のポートフォリオで、退職後に毎年資産の 4% (インフレ調整後) を取り崩した場合、過去のどの 30 年間を切り取っても資産が枯渇しなかったという結果です。
4% ルールの前提と限界
この研究にはいくつかの重要な前提があります。まず対象は米国市場のみです。20 世紀の米国株式は年率実質リターン約 7% という世界的に見ても例外的に好調な市場でした。日本市場で同じ分析を行うと、1989 年のバブル崩壊後に退職した場合、4% の取り崩しでは資産が枯渇するケースが出てきます。
また、30 年間という期間設定は 65 歳退職・95 歳までの想定です。40 代で FIRE を目指す場合は 50 年以上の期間が必要であり、4% では不十分とする研究もあります。トリニティ・スタディ (1998 年) の更新版では、50 年間の成功率を維持するには 3.5% 程度が安全とされています。
日本の投資家が考慮すべき点
日本の投資家が SWR を考える際には、いくつかの修正が必要です。第一に、為替リスクです。グローバル分散投資をしていても、生活費は円建てで必要なため、円高局面では外貨建て資産の円換算額が目減りします。第二に、日本の公的年金制度です。65 歳から年金を受給できるため、退職から年金受給開始までの期間と、年金受給後の期間で取り崩し率を変える二段階戦略が合理的です。第三に、日本の税制です。NISA 口座からの取り崩しは非課税ですが、特定口座からの取り崩しには約 20% の譲渡益税がかかるため、税引後の実質取り崩し率を計算する必要があります。 FIRE 関連書籍で戦略を深掘りできます
実践的なアプローチ
固定の SWR に頼るよりも、市場環境に応じて取り崩し率を柔軟に調整する「ガードレール戦略」が注目されています。たとえば、資産が当初計画の 120% を超えたら取り崩し額を 10% 増やし、80% を下回ったら 10% 減らすといったルールです。完全な固定取り崩しよりも資産寿命が延び、かつ好調時には生活水準を上げられる柔軟性があります。