順序リスクとは
順序リスクとは、同じ平均リターンでも、リターンが発生する順番によって最終的な資産額が大きく異なるリスクです。収益順序リスク (Sequence of Returns Risk) とも呼ばれます。資産を積み立てている段階では順序の影響は小さいですが、取り崩し段階では致命的な差を生みます。退職直後に大きな暴落が来ると、減った資産から生活費を引き出し続けるため、資産の枯渇が急速に進みます。仕組みの詳細は収益配列リスクの解説記事でも数値例つきで解説しています。
数値で見る順序の影響
3,000万円の退職資産から毎年150万円 (5%) を取り崩すケースを考えます。最初の3年間が+10%、+8%、+12%で始まれば、10年後も2,800万円以上が残ります。しかし最初の3年間が-20%、-15%、-10%で始まると、10年後には1,200万円程度まで減少します。30年間の平均リターンが同じ5%でも、最初の数年の順序だけで資産寿命が10年以上変わるのです。
| 取り崩し開始後の最初の 3 年 | 序盤が上昇 (+10%、+8%、+12%) | 序盤が暴落 (-20%、-15%、-10%) |
|---|---|---|
| 10 年後の残高の目安 | 約 2,800 万円以上 | 約 1,200 万円 |
| 資産寿命への影響 | 取り崩し計画への影響は限定的 | 10 年以上短くなり得る |
前提は「退職資産 3,000 万円・毎年 150 万円の定額取り崩し・30 年間の平均リターンは同じ 5%」の試算例です。序盤の順序だけでこれだけの差が生まれます。
対策
退職前後の5年間 (退職前2年、退職後3年) を「リスクゾーン」と呼び、この期間の株式比率を下げることが最も効果的な対策です。具体的には、生活費2-3年分を現金や短期債券で確保し、暴落時に株式を売らずに済む「バケツ戦略」が有効です。また、取り崩し率を柔軟に調整し、市場が下落した年は支出を抑えるルールを設けることで、資産の枯渇リスクを大幅に低減できます。
ライジング・エクイティ・グライドパス
退職時にいったん株式比率を下げ、その後徐々に引き上げる「ライジング・エクイティ・グライドパス」という設計も知られています。Wade Pfau と Michael Kitces の研究では、退職時の株式比率を 30-40% に抑え、退職後に時間をかけて 60-70% へ引き上げる方式が、株式比率を固定した配分に比べて資産寿命を延ばす効果があるとされています。資産が最も傷つきやすい退職直後の数年間に、株式への配分を抑えられるためです。
取り崩し率の調整
取り崩し率の調整も重要です。固定額ではなく、資産残高に連動した変動取り崩し (例: 毎年の資産残高の 4%) にすることで、暴落時の取り崩し額が自動的に減り、資産の毀損を抑えられます。ただし収入が不安定になるデメリットがあるため、最低生活費は固定で確保し、余裕分だけ変動させるハイブリッド方式が現実的です。
よくある質問
順序リスクは積立期にも影響しますか?
積立段階では影響が小さく、取り崩し段階で致命的になります。積立期は保有資産がまだ少なく、下落局面はむしろ安く買い増せる機会になる一方、取り崩し期は減った資産から生活費を引き出し続けるため、序盤の暴落が資産寿命を直撃するからです。