なぜリターンの「順序」が問題になるのか
積立期 (資産形成期) では、リターンの発生順序は最終的な資産額にほとんど影響しません。年率 +10%、-5%、+8% の順でも、-5%、+8%、+10% の順でも、掛け算の順序を入れ替えても結果は同じだからです。しかし取り崩し期では状況が一変します。毎月一定額を引き出しながら運用するため、暴落が初期に来ると、減った資産から引き出しを続けることになり、回復局面で運用に回せる元本が大幅に減少します。
具体的な数値で理解する
3,000 万円の資産から毎年 150 万円を取り崩すケースを考えます。シナリオ A: 最初の 5 年間が年率 -10%、その後 25 年間が年率 +10%。シナリオ B: 最初の 25 年間が年率 +10%、最後の 5 年間が年率 -10%。30 年間の算術平均リターンはどちらも同じですが、シナリオ A では約 18 年目に資産が枯渇します。一方シナリオ B では 30 年後にも約 4,000 万円が残ります。初期の暴落が取り崩しと重なることで、資産寿命に 12 年以上の差が生じるのです。
実務的な対策
対策の基本は「暴落時に株式を売らなくて済む仕組み」を作ることです。具体的には、2-3 年分の生活費を現金や短期債で確保する「バケット戦略」が有効です。暴落が起きても現金バケットから取り崩し、株式は回復を待てます。また、退職直前から退職後数年間は株式比率を下げる「グライドパス」も一般的です。米国の研究では、退職時の株式比率を 40-60% に抑え、退職後 10 年かけて徐々に引き上げる「ライジング・エクイティ・グライドパス」が、従来の株式比率を下げ続ける方式より資産寿命を延ばす効果があるとされています。
取り崩し率の調整も重要です。固定額ではなく、資産残高に連動した変動取り崩し (例: 毎年の資産残高の 4%) にすることで、暴落時の取り崩し額が自動的に減り、資産の毀損を抑えられます。ただし収入が不安定になるデメリットがあるため、最低生活費は固定で確保し、余裕分だけ変動させるハイブリッド方式が現実的です。 老後資金の計画は専門書で深く学べます